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町家で暮らす日々 29
写真と文 = 水野歌夕

紅殻格子

町家や民家の格子のことを紅殻格子(べんがらごうし)というけれど、これはベンガラ塗りの格子という意味だ。ベンガラとは酸化第二鉄を主成分とする無機赤色顔料のことで、その名前はインドのベンガル地方産のものを輸入したことが由来とされる。耐水性、耐熱性、耐光性、耐アルカリ性、耐酸性、防虫、防腐にも優れたベンガラは、古くから木材の塗料として、また、陶磁器や漆器など様々(さまざま)なものの着色に使われてきた。けれど手軽で安価なペンキが普及して以来、町家の格子にもペンキを塗ってしまうことが多い。塗るのに手間がかかり施工費も高くなるため、本当の紅殻格子というのは実はとても少なくなっている。

しかし昨今は天然塗料を見直す流れもあって、ベンガラ塗りの体験会も催されている。そして我が家でも、格子戸を二枚新調した事を期に、ベンガラ塗りに挑戦することになった。まず、ベンガラをこれまた防腐、防虫、防水、抗菌、そして接着作用のある柿渋(かきしぶ)で溶く。ベンガラは沈殿しやすいので何度もよく混ぜながら刷毛(はけ)で格子に塗っていく。最初のひと塗りで、もう後には引き返せないなと内心ひやりとしたが、徐々に調子にのってくるとなかなか楽しい。何度か塗り重ねて塗料が乾いた後、今度は亜麻仁油(あまにゆ)を薄く塗り、ウエスで丹念にすり込むと柔らかな光沢が出た。少々の塗りムラに目をつむってしまえば、なによりも濃茶色の中に赤みを帯びたベンガラの風合いに、大満足の出来栄えであった。

説明書に基礎等、防腐、防虫を目的とする場合は柿渋1.8リットルに対してベンガラ500グラムを混合するとあり、その割合で、半量を作る。柿渋は鉄に反応するというのでポリバケツを使用する。
 
取り寄せたベンガラは、松煙かあるいは黒ベンガラなどで古色を出した濃茶色。柿渋は無臭タイプが使いやすい。塗装乾燥後には亜麻仁油など木材の塗装に適した乾性油を塗ると撥水性、耐久性が増す。
 
完成したベンガラ塗りの格子戸。ベンガラの販売店、取り寄せはネットで検索出来る。塗り方は買ったお店で聞くのが一番確かと思う。油引きに使用した布は発火の恐れがあるので後始末に注意が必要。
みずの・かゆう
写真家、エッセイスト。1969年京都市生まれ。佛教大学文学部史学科卒業。京都現代写真作家展において大賞、準大賞、優秀賞を受賞。2001年から一年間、京都新聞に写真とエッセイ「京都ろーじ散歩」を連載。初の写真集「京の路地風景」(東方出版)が好評。水野克比古フォトスペース「町家写真館」館長。