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町家で暮らす日々 25
写真と文 = 水野歌夕

近江水屋

町家の台所は、通り庭とよばれる土間にある。間口が狭く奥行きの長い敷地に適した細長い台所で、壁側に井戸、おくどさん、走り、近江水屋(おうみみずや)などが一列に配置されている。現代の台所に置き換えれば、井戸は水道、おくどさんはコンロ、走りは流し台、近江水屋は食器棚ということになろうか。

近江水屋というと、聞き慣れない言葉かもしれないが、近江は、近江国(おうみのくに)、今の滋賀県が発祥だということで、水屋というのは水まわり(台所)のこと。つまりは滋賀県地方が由来の台所で使われる食器や食べ物を収納する家具ということだ。長い使用に耐えるため、堅牢(けんろう)な造りであるが意匠も凝っていて、取っ手の金具や欅(けやき)の木目が美しい引き出し、格子に飾り鋲(びょう)のついた引き違い戸などがたくみに組み合わされている。そしていざという時には持ち運びしやすいように上下二段に分かれる。また面白いのは、一部分、文様をくりぬいた木の飾り桟(さん)をもつ金網張りの戸があることだ。これは蠅(はえ)などの虫が侵入せず同時に通気性も保つ蠅帳(はいちょう)である。冷蔵庫のない時代は、食材や作り置きしたおかずなどをここに保管したのだろう。

つやつやと黒光りしているこの水屋箪笥(たんす)は百年を超える長い年月、町家の暮らしの中で使い込まれ、磨き、大切にされてきたのだ。そして今も大量の我が家の食器類、印判の大皿なども吸い込むように収納してくれる。使い勝手がよく、空間を引き締めるような存在感があるのに心和む優しい雰囲気。こうした昔からの家具には作った職人の心や使い手の思いがこもった、なんともいえない味わいがある。

みずの・かゆう
写真家、エッセイスト。1969年京都市生まれ。佛教大学文学部史学科卒業。京都現代写真作家展において大賞、準大賞、優秀賞を受賞。2001年から一年間、京都新聞に写真とエッセイ「京都ろーじ散歩」を連載。初の写真集「京の路地風景」(東方出版)が好評。水野克比古フォトスペース「町家写真館」館長。
   
 
 
近江水屋のような堅牢で大容量な造りの食器棚は、現代の一般家庭にはあまり見られない。一つの家具が世代を超えて大切に受け継がれることも町家暮らしの喜びの一つ。
 
引き戸に目の粗い金網と細かい金網が二重に張られ、蠅帳になっている部分は、デザイン的にも面白い。風通しが良く、蠅などの虫が入らないから食品を入れておくのに適している。
 
藍(あい)の色がすがすがしい古伊万里のみじん唐草文様の皿やなます皿、華やかな色絵の皿、蕎麦猪口(そばちょこ)、りん茶わんなど。近江水屋にはお気に入りの骨董(こっとう)の器もよく似合う。