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町家で暮らす日々 24
写真と文 = 水野歌夕

蚊帳

夏の夜、ふと目が覚めると庭の松にちょうど月がさしかかっていた。月の光は庭をぼんやりと青白く照らしている。寝る前に涼を求めて開け放ったままの掃出(はきだ)しのガラス戸、枕に頭を置いたまま、蚊帳越しに見た庭は、昼間よりずいぶん近くに見えて、そよそよと流れて来る風も少し湿った土や苔(こけ)、木の匂いがした。

ところでこの季節、我が家では蚊帳が必需品だ。町家は夏を旨として建てられているから、坪庭や通り庭の土間などから風が良く通って最近の家より涼しい。しかし、庭は緑が多いゆえに蚊も多い。また風通しが良いから、いくら網戸をしていても蚊までするりと家の中に入ってしまうからだ。

扇風機で蚊を吹き飛ばしてみたり、一日中蚊取り線香をつけたりといろいろ工夫してみたが、結局のところ町家の夏の夜には蚊帳が一番なのだ。エアコンの風で冷え過ぎるという事も無く、あの嫌な蚊から守られる。一晩中、殺虫剤や蚊取り線香を使わなくても良いのだから快適だ。

そして、そんな諸々(もろもろ)の実質的なことはもちろん、蚊帳というのは、なぜか懐かしいような、楽しいような、まだ夢のつづきや思い出の中にいるような不思議な気持ちにしてくれる。幼い頃、蚊帳の中に蛍やトンボなんかの虫を放して遊んだ事を思い出すからなのかもしれない。それとも、蚊帳の中で一緒に寝ている家族の、すやすやと心地良さげな寝息が、より身近に感じられるからかもしれない。私は蚊帳の中で眠るといつも優しい気持ちになれる。

蚊帳は、蚊などを防ぐために用いる格子状に編まれた箱状の網。網目は虫を通さず、風は通すように、1ミリ四方程度。素材は麻、綿、化学繊維などがあるが、純麻製のものは、麻のもつ湿度調節機能で、より涼しく感じられる。
 
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蚊帳は夜具を敷いた上に、吊(つ)り下げて使う。長押(なげし)や鴨居(かもい)に金具を取り付けるか、部屋の隅に曲がった釘(くぎ)を打ち、これに蚊帳の吊り紐をかける。吊り紐(ひも)には、ひょうたんの形をした長さを調節できる器具がついている。
 
最近、麻100パーセントの蚊帳地でつくられた布巾(ふきん)を見つけた。抜群の吸湿発散性。手触りも良く、重宝している。麻の館、麻小路さんで購入。
●麻小路:京都市中京区御池通堀川西入ル猪熊角/月曜休み/075-841-5000
みずの・かゆう
写真家、エッセイスト。1969年京都市生まれ。佛教大学文学部史学科卒業。京都現代写真作家展において大賞、準大賞、優秀賞を受賞。2001年から一年間、京都新聞に写真とエッセイ「京都ろーじ散歩」を連載。初の写真集「京の路地風景」(東方出版)が好評。水野克比古フォトスペース「町家写真館」館長。