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町家で暮らす日々 23
写真と文 = 水野歌夕

猫

家には一匹の猫がいて名前は寧子(ねね)という。彼女はいつも家族の輪の中にいて静かにこちらを眺めている。食事など団らんの時はもちろん、仕事でも探し物でも誰かが何か始めると必ず嗅ぎ付けて、その好奇心にあふれた目を丸くなるほど見開き、家族の一挙一動を確かめる。どうも彼女にとっては家でおこる事全てを把握し見守るのが務めであるらしい。

彼女がやってきたのは五年前、お盆がすんでしばらくたったある日のことだ。昼前にお客様がみえるというので、私は玄関の庭に水を打っていた。すると突然ほんの間近に「ミャオウ、ミャオウ」と猫の鳴き声が聞こえた。耳をすますとそれは子猫が親猫を呼ぶ声のようだ。子猫がどこかにいるに違いないと、息をひそめ目を凝らして物陰を探してみたが見つからない。そろそろと声のする方に近づき庭の角の雨樋の前まできた。嫌な予感に耳をそっと樋にあててみると中で子猫の鳴き声が響いている。どうしよう、この樋は下方がコンクリートに埋め込まれていてはずれないのだ。

私は二階に駆け上がり、窓から屋根に下りて屋根のふちまで行ってみた。樋の丸い穴を覗き込むが真っ暗で何も見えない。けれどやはりそこから子猫の必死の声が聞こえる。もはや疑う余地はなく、子猫はここからすっとんと樋の中に落ちて助けを呼んでいるに違いなかった。それから樋がのこぎりで切られ、中から子猫が救出されるまでは大騒動であった。固唾をのんで見守る中、樋の中からつまみ出されたのは、猫というよりは、ぬれてドブネズミのようになった小さな生き物。ふるえながらも懸命に鳴く姿は家族の心をわしづかみし、彼女はこうして否応もなく我が家の一員になった。

みずの・かゆう
写真家、エッセイスト。1969年京都市生まれ。佛教大学文学部史学科卒業。京都現代写真作家展において大賞、準大賞、優秀賞を受賞。2001年から一年間、京都新聞に写真とエッセイ「京都ろーじ散歩」を連載。初の写真集「京の路地風景」(東方出版)が好評。水野克比古フォトスペース「町家写真館」館長。
身体(からだ)はだいぶん大きくなったけれど、まだまだやんちゃ盛りのころ。床の間の前につり下げられた飾りの紐(ひも)が気になって仕方がなく、猫パンチをくり出して遊んでいます。
 
我が家にやって来てまだ2週間ぐらいのころ。まだまだ母猫からミルクをもらう時期でした。娘がお母さん代わりに哺乳(ほにゅう)瓶で猫用ミルクをあげました。そのせいか、今もたぶん娘を親と思っています。
 
寧子と初めて出会った時、ネズミくらい小さかったけれど現在はすっかり大人の貫禄。私が部屋で写真を撮っていると、庭に面した縁側から何をしているのかなと覗きにきました。