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町家で暮らす日々 21
写真と文 = 水野歌夕

柚子湯

お風呂場の引き戸を開けると、脱衣場に白い湯気と柚子(ゆず)の仄(ほの)かな香りが流れ込んで来た。立ち込める湯気の中で足の裏に洗い場の簀子(すのこ)の感触が柔らかく心地良い。目前の小判形をした椹(さわら)の湯船の中には、丸い柚子が数個ぷかぷかと浮かんでいる。

昼間、父が水尾の里に行って柚子を買って来てくれた。余りにたくさんあったので今夜は冬至ではないけれど、柚子湯にしようということになった。昔から柚子の風呂に入ると身体(からだ)が温まり、風邪を引きにくくなるといわれている。柚子の皮には、レモンを超えるビタミンCやピネン、シトラールなどの精油成分が含まれていて肌を美しく、また新陳代謝を促進、血行を良くするなどの効果があるそうだ。私が動きお湯が動くと、柚子の実も浮き沈み、くるくる回る。その度にふわっとたちのぼる柚子の香りは爽(さわ)やかで、気分がすーっとしてくる。ゆったりとお湯につかっている内(うち)にすっかり疲れも癒やされた心地がした。

水尾は嵯峨の鳥居本から一本道をずっと奥に入った愛宕山の西南の裾(すそ)にある静かな山里である。柚子の里として知られるだけあって集落のあちらこちらに柚子の林があり、晩秋の頃(ころ)になると黄金色の柚子がたわわに実って美しい。この柚子は水尾の里の清冽(せいれつ)な空気と水に育(はぐく)まれたがゆえに、こんなにもすがすがしい匂(にお)いを放つのかもしれない。私は身体の芯(しん)まで温まって、その夜は寝床に入ってもぽかぽか、一晩中すがすがしい柚子の香りに包まれていた。

みずの・かゆう
写真家、エッセイスト。1969年京都市生まれ。佛教大学文学部史学科卒業。京都現代写真作家展において大賞、準大賞、優秀賞を受賞。2001年から一年間、京都新聞に写真とエッセイ「京都ろーじ散歩」を連載。初の写真集「京の路地風景」(東方出版)が好評。水野克比古フォトスペース「町家写真館」館長。
我が家のお風呂は木製。こんな寒い冬の日は、洗い場の桧 (ひのき)の簀子や椹の湯船の温かい感触は殊更ありがたく思える。手桶(おけ)も椹製。ちょっと贅沢(ぜいたく)だが柚子は切らずに丸ごと入れる方が楽しい。
 
 
柚子大根。短冊に切った大根に塩、砂糖、酢、タカの爪(つめ)少々、 搾った柚子をたっぷり、皮も刻んで適量入れる。冷蔵庫に入れて一日程、浅漬けにするとおいしい。
 
冬場、なにかと重宝な柚子。薄く輪切りにして、はちみつで漬け込むとマーマレードのようになり、お湯をそそぐと柚子茶になる。豊富なビタミンCやミネラルなどが含まれている。